新型コロナウイルスの世界的流行がもたらした意外な結果の1つは、私がどうやって生計を立てているのかについて両親がようやく理解してくれたことです。私がサプライチェーンマネジメントの世界に身を置いて早20年以上がたちますが、以前からその意味を他の人に説明してもなかなか理解してもらえませんでした。ところが、テレビで毎日放送される政府関係者の記者会見、新聞、ラジオ、ソーシャルメディアなどで「サプライチェーン」という言葉が頻繁に飛び出すようになった結果、サプライチェーンマネジメントがなぜ重要なのかを正しく理解する人々が増えています。
私は、4月にブログ記事「Keeping Supply Chains Running in Rapidly Changing Conditions」を投稿して以降も、ポリマー、特殊化学品、建築材料、消費者向けパッケージ商品、食品・飲料などのさまざまな製造業のサプライチェーン専門家と意見交換を続けてきました。その中でよく耳にするのは、このコロナ禍の中でサプライチェーン組織が重要な指導的役割を果たしているということです。
サプライチェーンは今、この極めてまれな事態により、かつてないほどの試練のときを迎えています。今回の記事では、すでに起こっている構造的転換について、また特定のサプライチェーン機能やビジネスプロセスの相対的重要性について学んだことをお話ししたいと思います。
需要予測はコロナ禍以前に比べて大幅に精度が低下している
商品やサービスの将来需要について正確に予測できることは、サプライチェーンにとって非常に重要です。多くの企業は、コロナ禍以前の平常時でさえも、特殊性を適切なレベルに抑えながら実行意思決定に必要とされる正確な需要予測を行おうと苦労しています。この春にほとんどの企業が訴えている問題は、需要予測の精度がコロナ禍以前に比べて大幅に低下していることです。どうしてでしょうか?それは、需要予測に用いているモデルや先進アルゴリズムが過去の需要データおよび関連パターンに大きく依存していることに原因があります。
別の言い方をすれば、それらのアルゴリズムはコロナ禍のような一生に一度の出来事に対応できるように設計されていないということです。MIT Technology Reviewの5月号の記事「Our Weird Behavior During the Pandemic Is Messing With AI Models」は、このトピックについて深く掘り下げています。
この予測の問題に対して、いくつかの興味深い対応が見受けられます。まず、一部の企業は最新のアルゴリズムから、はるかに単純な方法(3期の単純移動平均など)または前期の実需を用いた予測(「単純予測」と呼ばれる手法)に一時的に移行しています。また、需給シナリオ分析チームに経験豊富な需要プランナーを配属し、シナリオ分析によって得られる知見から大きな価値を実現することを目指している企業もあります。そうした需要プランナーは、短期および中期の需要見通しシナリオ(回復が始まってからの2~3四半期)で使用する主な想定や基礎的な入力データについての知見をもたらす手掛かりを、組織や市場の周辺的な立場からあらゆる手段で探る任務を負っています。
メーカーは、将来のある時点でニューノーマル下の経営環境に気付き、次第に従来の需要予測手法に回帰するものと思われます。
需給シナリオの最適化と分析の重要性が急速に高まっている
私がこれまでに話を伺った企業のほとんどは、数多くの需給シナリオを設定、評価するチームを設置しています。あるメーカーのシナリオ分析アプローチは、特に洞察に満ちています。そのシナリオチームは、一連のあり得る需給シナリオの設定にコツコツと取り組み、サプライチェーン最適化モデルのパラメーター(輸送時間、製造ライン能力、原材料価格、販売価格など)に反映させるために、主な想定と関連データをシナリオごとに文書化しました。シナリオ評価チームは、需給シナリオのありとあらゆる組み合わせについて最適化モデルを実行しました。その数は全部で150近くに上ります。
同社は、Aspen Supply Chain Plannerソリューションを使用して、12カ月の計画期間にわたってすべての製造拠点はもちろん、大規模かつ複雑な流通ネットワークもモデリングしました。そして、さまざまなシナリオの財務およびオペレーション上の詳細(レポート、チャート)を社内の営業、サプライチェーン、および製造グループの幅広い関係者と共有し、さらなるレビューによって主な課題や制約を明らかにしました。
この企業は、データ可用性とデータ品質の重要性を浮き彫りにしています。しっかりしたデータガバナンスプロセス(特にERPシステムに保存されるマスターデータに関連する)は、こうした強力で洞察力に満ちた最適化モデルを導入する上で不可欠な要素です。
製造スケジューリング最適化によるキャッシュフローの改善は優先課題である
私は、ブログ記事「2020 Supply Chain Management Trends to Watch」の中で、製造スケジューリング最適化がもたらす莫大な未実現キャッシュフロー、顧客サービス、収益機会に気付くメーカーが増えていることについて触れました。多くのメーカーは、相変わらずスプレッドシートを利用してスケジューリングを行っています。高忠実度ツールは、与えられた制約条件における最適なタスクの順序についての知見をもたらし、在庫削減、納期遵守率の向上、さらには生産高向上による収益性向上に役立ちます。企業がどのようにして製造スケジュールを最適化しているのかを示す事例を、今後のブログ記事で紹介する予定です。
すべての人の共通認識を図ることこそが事業継続性と安全確実なオペレーションを維持する上で最も重要である
2020年第1四半期の業績発表では、全従業員の半分から3分の2が現在、在宅勤務体制であることを報告するメーカーが相次ぎました。効果的なコミュニケーションを維持し、製造現場の最新状況を認識し、的確な意思決定を行い、サプライチェーンチームと製造チームのメンバーが共通の目標に向かって取り組み続けることは、現在の状況ではことさら困難になっています。
Aspen Schedule Explorerの早期導入企業からは、チームの生産性向上、チームへの最新情報の提供による共通認識の醸成、手痛いミスの原因となる誤解の防止につながった状況やユースケースの具体的な事例が続々と報告されています。アスペンテックは先頃、20のユースケースをまとめた「Aspen Schedule Explorerベストプラクティス導入ガイド」を作成しました。その中で、早期導入企業のお客様ではどのようにしてさまざまな役割(プラントマネージャー、ユニットリーダー、シフト監督者、原材料プランナー、保全管理者、化学者、運転員、プロセスエンジニア、生産エンジニア、オペレーション管理者、ロジスティクスコーディネーター、プロセスオーダーコーディネーター、生産準備スタッフ、S&OPプランナー)の人々が、このコラボレーションウエブプラットフォームによって生産性向上と価値を実現しているのかを紹介しています。
アスペンテックは、サプライチェーンのプランニング、スケジューリング、および製造オペレーション実行との継続的な調整の改善を通じて、すべてのお客様の成功を支えることに全力で取り組み続けています。アスペンテックのソリューションについてご不明な点がございましたら、カスタマーサポートサイトをご覧いただくか、info@aspentech.comまでメールでお問い合わせください。
※この記事は、「A Supply Chain Tectonic Shift Just Happened Did You Feel It 」の参考日本語訳です。
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